新リース会計基準が不動産管理に与える影響と対策

2027年4月から始まる新リース会計基準について、前回は主な変更点や改定の背景をご紹介しました。今回はそれに引き続き、新リース会計基準が企業の不動産管理にどんな影響を与え、どういった対策が求められるようになるのかご紹介します。

新リース会計基準のインパクト

新リース会計基準は、これまでオフバランス処理されていた多くのリース契約がオンバランス処理に変わることにより、不動産の管理業務にも大きな影響を及ぼします。これまで賃料として経費処理すれば済んでいた契約が、財務諸表に直接反映されるようになるからです。

たとえば、店舗を全国展開する小売企業の場合、物件の契約期間や更新条件、リース料をもとに各店舗ごとの資産・負債を算出しなければなりません。契約の更新タイミング1つとっても、貸借対照表の金額を変動させる要因となります。

こうした影響により、不動産管理の担当者には契約管理だけでなく、会計的な視点から経営陣への説明責任を果たすことが求められるようになるはずです。あわせて経営陣にとっても不動産戦略を財務データと一体で考える必要が生じ、企業にとっての不動産はより戦略的な性質を帯びるようになるでしょう。

不動産管理における3つの変化

続いて実務面への影響を詳しく見ていきましょう。新リース会計基準により、不動産管理業務には3つの大きな変化が訪れると考えられます。

1つめは契約情報の一元管理の必要性です。一般的に不動産の契約書は部門ごとに管理されることが多く、「どの部署がどの物件を、どういった条件で利用しているのか」すぐには把握できないケースも少なくありませんが、新基準では契約期間やリース料、更新条項といった契約条件が会計処理に直接影響します。これまでと比べて契約データを一元管理する必要性が一層増すはずです。

2つめは会計処理とのリアルタイム連携です。今後はリース契約を変更するたびに、不動産管理部門と経理部門が連携して会計上の処理を更新しなければなりません。たとえば、オフィスの契約を延長した場合、延長期間にもとづくリース負債を再計算し、仕訳も修正する必要があります。こうしたプロセスを手作業で行うのは非効率なので、システムの導入が現実的な選択肢になるでしょう。

3つめは情報提供です。新基準によって不動産契約が財務指標に直接影響するようになると、不動産管理の担当者は経営陣に「どの物件を残すか、どの契約を見直すか」といった提案をする役割を担うことになるはずです。たとえば、店舗が契約の更新時期を迎える際、リース契約を延長した場合と新規出店に切り替えた場合それぞれで財務指標がどう変化するかシミュレーションし、経営陣の意思決定をサポートする役割が求められます。

ポイントとなる3つの要素とは?

こうした変化に対応し、不動産戦略を進化させていくうえでポイントとなるのが、データの一元管理およびシステムの構築と連携体制の構築です。

まず、すべての不動産にまつわるあらゆる情報(所在地、契約形態、利用目的、支払条件、契約残存期間など)を正確に整理し、データベース化することが出発点です。この段階で「契約書の管理が部門ごとにバラバラ」「更新履歴がわからない」といった課題が浮かび上がることもあるかもしれません。

次に、こうしたデータを活用するシステムの導入・整備が重要になります。たとえば最近では、リース契約の条件を入力すると資産・負債が自動算出され、減価償却や利息費用を仕訳に反映する機能を備えたシステムを導入する企業も増えてきました。また、システムを導入すると経営陣がシステムのダッシュボード上で物件の一覧を確認し、更新時期や財務への影響を即時に把握できるようになり、意思決定のスピードが格段に上がります。

さらに、組織の横断的な連携も欠かせません。経理、経営企画、不動産管理がそれぞれの視点から情報を共有し、財務・戦略・運用を一体に考える。こうした連携が整うことで、不動産が単なる費用管理の対象から「企業価値を支える戦略資産」へと進化するはずです。

さいごに

新リース会計基準の適用は、不動産管理を経営の視点から再定義する契機となります。これまで管理の対象やコストセンターとして捉えられることも多かった不動産が「経営資産」「戦略資産」へと変わっていく。その変化を正確に捉え、データにもとづく意思決定を実践する企業が、不動産事業の優位性を確かなものにしていくのではないでしょうか。

本コラムでは引き続き新リース会計基準にまつわるトピックスを取り上げ、対策やノウハウとあわせてみなさまにお届けしていきます。