加速するデータセンター投資
「ChatGPT」をはじめとする大規模言語モデルを用いたAIの開発競争および利用の増加、ビットコインなどの仮想通貨のマイニング増加、DXの進行により、データセンターの需要は世界中で拡大しています。また、欧米ではこれまでコアアセットであったオフィス市場が、新型コロナウイルス感染拡大によって被ったダメージからの回復が遅れ、データセンターが投資の新たなコアアセットとして注目されています。
オフィス市場が欧米に比較して堅調な日本においても多くのデータセンター開発及び計画が進んでおり、JLLの「EFLOPS、レジリエンス、脱炭素と日本のデータセンター不動産投資市場」によると、日本は、北米・欧州、アジアパシフィック地域などとの接続の良さ、政治的安定性の高さ、光ファイバー敷設率の高さ、停電の少なさ、高度人材の豊富さ、地政学リスクの少なさ、高度な自然災害対策等の理由から、データセンター建設地として優位性があるとされています。
加えて、日本経済新聞の「データセンターや基地局に期待 米英大手運用会社の幹部」によると、ダブリン、アムステルダム、シンガポール、アッシュバーンなどの都市では、送配電網が対応できないことからデータセンターの新設を停止しています。これらの理由から、日本はデータセンター建設地としてグローバルで注目を集めており、既に30近い企業・企業グループがデータセンターの開設・拡張を計画しています。
データセンターの電力消費量も増加

図1:主要国の2023年の電力消費量(Enerdata「世界のエネルギー・気候統計-年鑑2024」より作成)
国際エネルギー機関(IEA)の「Electricity 2024」によると、現在、世界には8,000以上のデータセンターがあります。うち約33%が米国、約16%がヨーロッパ、約10%が中国で、2022年時点の世界のデータセンターの電力使用量は460テラワット時であるとしています。
またIEAは、Google等の検索ツールがAIを導入した場合、1リクエスト当たりの電力需要が約10倍(通常の検索の0.3ワット時に対しAI導入後は2.9ワット時)に増加する可能性があり、1日あたりの検索数を90億回とすると、年間で10テラワット時の追加電力が必要になると試算しています。これらを考慮すると、2026年の世界のデータセンターの電力消費量は620テラワット時(1.35倍)~1,050テラワット時(2.28倍)に拡大する見込みです。
さらにEnerdataの「世界のエネルギー・気候統計-年鑑2024」によると、2023年の日本の電力消費量は世界で5番目に多い(図1)909テラワット時ですので、2026年にはデータセンターのみで日本1国分の電力消費量を上回る可能性があるのです。
実際、国内のデータセンターの電力消費量はどのように変化するでしょうか。IDC Japanは「国内データセンター内のAI向け電力推定を発表」において、2027年の国内のデータセンターのAI向け電力需要が2024年の約1.5倍になると試算しています。
また、国立研究開発法人科学技術振興機構は「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響Vol.4」において、2030年の国内データセンター電力消費量は、現時点の技術のまま省エネルギー対策が進まない場合(As isケース)は90テラワット時(2018年の6.4倍)、エネルギー効率が小幅に改善された場合(Modestケース)は24テラワット時(同1.7倍)、エネルギー効率が大幅に改善された場合(Optimisticケース)は6テラワット時(同0.4倍)になると試算(図2)しています。

図2:日本のデータセンター電力消費量の予測(国立研究開発法人科学技術振興機構「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響Vol.4」より作成)
データセンター電力消費量が線形的に増加すると仮定すると、As isケースの2027年のデータセンター電力消費量(約71テラワット時)は2024年(約52テラワット時)の約1.4倍となりますので、IDC Japanの試算は国立研究開発法人科学技術振興機構の試算のAs isケースに近いものであると考えられます。国立研究開発法人科学技術振興機構は2030年の世界のデータセンター電力消費量も試算(図3)しており、As isケースは2,600テラワット時(2018年の14.4倍)、Modestケースは670テラワット時(同3.7倍)、Optimisticケースは190テラワット時(同1.1倍)と試算しています。

図3:世界のデータセンター電力消費量の予測(国立研究開発法人科学技術振興機構「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響Vol.4」より作成)
データセンター電力消費量が線形的に増加すると仮定すると、国立研究開発法人科学技術振興機構の試算する2026年の世界のデータセンター電力消費量はModestケースで約507メガワット時、As isケースで約1,793メガワット時ですので、IEAの試算は国立研究開発法人科学技術振興機構の試算のModestケースとAs isケースの中間あたりであると考えられます。
このように急速に増加する電力消費量が今後のデータセンターにどんな影響をもたらすのか。次回は2000年以降の電力使用量の推移を示す数値などを交えつつ、データセンター開発を阻むリスクについてより深掘りしていきます。
藤井和之(ふじいかずゆき) 不動産市場アナリスト
1987年 東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了、清水建設入社
2005年 Realm Business Solutions(現ARGUSSoftware)
2007年 日本レップ(現GoodmanJapan)
2009年 タス
2022年~現職
不動産流通推進センターの機関誌「不動産フォーラム21」ほか執筆・セミナー活動を実施
著書 大空室時代~生き残るための賃貸住宅マーケット分析 住宅新報出版
不動産証券化協会認定マスター、宅地建物取引士
MRICS(英国王立チャータード・サーベイヤーズ協会)メンバー
日本不動産学会、日本不動産金融工学学会、資産評価政策学会会員