積みあがる築古分譲マンションのストック
図1に国土交通省の資料から作成したマンションの新規供給戸数とストック戸数の推移を示しました。新規供給数はリーマンショック後に大きく減少し、直近の10年は10万戸前後で推移しています。2024年時点の推定ストック数は713.1万戸です。ここで注目すべきは、マンションの除却がほとんど進んでいないということです。

図1:マンションの新規供給戸数とストック戸数の推移(国土交通省「分譲マンションストック数の推移」より作成)
続いて図2にマンションの推定除却数の推移を示します。推定除却数は新規供給戸数の累計からストック戸数を差し引いて求めています。2024年末時点で、新規供給の累積は716.6万戸ですので、除却されたマンションはわずか3.5万戸しかありません。これはマンションの除却がいかに困難であるかを示しています。

図2:マンションの推定除却数(同上)
また、建替えも進んでいません。国は阪神・淡路大震災の発生を受け、2002年に旧耐震基準の建替えを迅速に進めることを目的とした「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」(東日本大震災の発生後、2014年に改正)を施行しましたが、「マンション建替え等の実施状況」によると、2025年3月末時点でこの法律を利用した建替えの完了は133件にとどまっています。「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」によらない建替えを含めても、建替え工事完了済みは323件(約26,000戸)に過ぎません(図3)。

図3:マンション建替え件数推移(国土交通省「マンション建替え等の実施状況」より作成)
阪神・淡路大震災、東日本大震災及び熊本地震による被災マンションの建替え115件を含めても、建替え工事完了済みは438件です。国は、マンションの建替えや改修を促進する目的で、2025年5月に改正区分所有法を改正し、2026年4月1日から施行予定です。改正区分所有法では、管理組合総会の母数から所在不明者を除外、総会の出欠者の多数決で決議が可能、および多数決要件の緩和などが規定されました。しかし、最大の要因は建替え費用の捻出にありますので、国の目論見通りに建替えは進まないと考えられます。
結果として、築古のマンションストックが積みあがっていくことになります。国土交通省は「築40年以上のマンションストック数の推移」において、2024年末時点で築40年以上のマンションは約148万戸あり、今後、10年後の2034年末には約2.0倍の293.2万戸、20年後の2044年末には約3.3倍の482.9万戸に増加するという見通しを示しています(図4)。
仮に2044年まで年平均8万戸が新規供給され続け、除却数が過去20年と同等とした場合、2044年時点の分譲マンションのストック数は約875万戸と推計できますので、過半数(55.2%)が築40年以上のマンションとなります。

図4:築40年以上のマンション数の予測(国土交通省「築40年以上のマンションストック数の推移」より作成)
築古マンションの全国分布
次に都道府県別の分譲マンションストック分布を見ていきましょう。図5-1に東京カンテイの「都道府県・主要都市のマンションストック戸数&マンション化率 2024」から作成した都道府県別の分譲マンションストックのグラフを示します。なお、東京都は23区と東京都下に分割しています。この分布を見てもわかるように、東京圏(東京23区、東京都下、神奈川県、埼玉県、千葉県)には全国のマンションストックのうち51.9%が集中しています。
また、関西圏(京都府、大阪府、兵庫県)にはストックの19.8%、愛知県にはストックの5.3%、福岡県にはストックの5.2%が存在しており、全国のマンションストックの82.2%が4大都市圏に集中しています。

図5-1:都道府県別(東京都は23区と都下に分割)の分譲マンションストック(東京カンテイ「都道府県・主要都市のマンションストック戸数&マンション化率 2024」より作成)
あわせて図5-2に築年別の都道府県シェアを示します。東京圏のシェアは築41年以上のマンションの57.1%を占めていましたが、築31年-40年では44.6%までシェアを落としています。これは主に東京23区のシェアの低下(築41年以上:24.5% ⇒ 築31年ー40年:14.2%)が原因です。築31-40年のマンションが建設された時期はバブル景気で東京23区の地価が高騰し、マンション用地確保が困難であったこと、地方圏でリゾートマンションの建設が盛んにおこなわれたことなどが起因しています。
バブル景気破綻後、東京圏のシェアは回復し、築11年ー30年のシェアは52.5%、築0年-10年のシェアは51.4%と、全体の過半数を占めています。また、近年の傾向として4大都市へのマンション建設集中が進んでおり、東京23区、大阪府、愛知県、福岡県が築0年-10年のマンションに占める割合は51.6%と過半数を占めています。大都市でタワーマンションなどが増加したことが要因と考えられます。

図5-2:都道府県別(東京都は23区と都下に分割)の築年別シェア(同上)
さて、東京カンテイによると東京圏のマンション化率(分譲マンションストック戸数÷世帯数)は埼玉県が14.15%、千葉県が15.74%、東京都が28.29%(東京23区が32.72%、東京都下が17.4%)、神奈川県が23.16%です。ただしマンション化率の算出に用いられている世帯数は各都県の全世帯数であり、賃貸住宅居住等の持ち家でない世帯も含んでいます。
総務省の「2020年国勢調査」によると東京圏の持ち家率は、埼玉県が65.89%、千葉県が64.71%、東京都が46.13%、東京23区が42.95%、神奈川県が59.38%です。これを用いて、持家世帯のマンション化率を算出すると、埼玉県が21.47%、千葉県が24.32%、東京都が61.34%(東京23区が76.18%、東京都下が32.32%)、神奈川県が39.00%であり、東京都、特に東京23区の持家世帯マンション化率がとびぬけて高いことがわかります。
東京都は、1964年の東京オリンピックを契機に分譲マンションの供給が進んだため、多くの築古マンションが存在しています。また人口が集中していることから東京23区では今後も大型マンションの新規供給が継続することは確実です。東京都の持家世帯マンション化率はさらに上昇する可能性が高いでしょう。
次回は今回ご紹介した内容をふまえつつ、今から20年後の2045年の住宅市場の状況を考察していきます。
藤井和之(ふじいかずゆき) 不動産市場アナリスト
1987年 東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了、清水建設入社
2005年 Realm Business Solutions(現ARGUSSoftware)
2007年 日本レップ(現GoodmanJapan)
2009年 タス
2022年~現職
不動産流通推進センターの機関誌「不動産フォーラム21」ほか執筆・セミナー活動を実施
著書 大空室時代~生き残るための賃貸住宅マーケット分析 住宅新報出版
不動産証券化協会認定マスター、宅地建物取引士
MRICS(英国王立チャータード・サーベイヤーズ協会)メンバー
日本不動産学会、日本不動産金融工学学会、資産評価政策学会会員