CRE戦略の考え方とは?ガイドラインをもとに損失や効果、事例を紹介
現在保有している不動産の活用や見直しによる無駄の削減を考える際に、CRE戦略は企業にとって重要な課題といえます。
新型コロナウイルスの感染拡大など社会的に大きな影響を与える出来事も増えたことから、ここ最近でCRE戦略を導入する企業は増加傾向にあります。
しかし、ただやみくもに導入するのではなく、期待できる効果や疑問視するべき損失など、過去の事例を知っておくことが大切です。
本記事ではそんなCRE戦略について、考え方や、国土交通省が提示しているガイドラインをもとに、効果を詳しく解説しています。
CRE戦略とはどのような考え方か?
CRE戦略の考え方について、国土交通省のガイドラインで詳しく紹介されています。
そもそもCREとは「Corporate Real Estate」の頭文字をとった略称で、直訳すると「企業不動産」です。
この企業不動産を、企業価値向上のために活用方法などを見直して、不動産投資の効率を最大化させる考え方をCRE戦略といいます。
CRE戦略のおもな特徴は、不動産を単なる財産として考えるのではなく、企業価値を向上させる資源です。
また、ITを最大限活用し、会社全体のマネジメントも重視しています。
PRE戦略との違い
CRE戦略の対照にあたるのがPRE戦略です。PREとは「Public Real Estate」の頭文字を取った略称で、直訳すると「公的不動産」のことを指します。
公的不動産とは、国や地方公共団体が持つ不動産です。
PRE戦略は、公共公益のために、使われていない土地や建物、遊休地などの公的不動産を効率的に利用することを再検討する取組みになります。
かんたんに両者の違いをまとめると、CRE戦略は企業価値を向上させる考え方、PRE戦略は公的財産の有効活用を再検討する取組みです。
CRE戦略が無い場合の損失3選
現在の不安定な社会情勢から、企業や企業不動産を取り巻く環境は日々大きく変化しています。
だからこそ、無駄のない企業不動産の活用で企業価値を向上させるCRE戦略は大切な考え方です。
では、そんなCRE戦略が無い場合、企業にどのような損失をもたらすのか、典型的な例を3つ解説していきます。
1.余分な不動産コストがかかる
地価について何も考えずに「高いときに買い、安いときに売る」行為が、余分な不動産コストをかけることになるのはもっともわかりやすい例です。
ですが、未利用の土地や社内スペースなど、放置を当然のようにしている企業があるのも現状です。
不動産は所有するだけでも一定のコストがかかっておりますが、使用していない分も無駄にかけています。
自社にそれらの無駄な土地、スペースはないか、一度見直してみましょう。
2.有効活用できずに金銭的な損失が出る
不動産を所有することに意味を感じて、有効的な活用方法については何も考えない企業もあります。
その場合、経営陣の満足には繋がっているかもしれないですが、CRE戦略的に考えると利用しない企業不動産は無駄なコストと捉えられます。
企業不動産は、有効活用することではじめて価値のあるものとなり、利用できないのであれば売却、賃借するといった削減に取組むべきといえます。
3.リテラシーを持つ人材・組織が不足して機会を損失する
企業不動産についての考えが何もないと、不動産の所有・経営コストについてのリテラシーを持つ人材や組織が不足してしまう恐れが高まります。
その場合、企業内外において不動産にかかわる問題解決に向けて動ける人材が少なく、企業不動産の経営方針において意思の統一が困難になるといった機会損失に繋がりかねません。
各企業は、不動産に対するリテラシーを高める教育を実践していくことも重要な課題といえるでしょう。
【企業編】CRE戦略を実施して得られる効果5選
CRE戦略を実施して得られる効果は、不動産の有効活用によって得られる利益の向上や、無駄を削減することでコストを抑えられるなど、期待しやすい効果だけではありません。
ここでは企業がCRE戦略を実施して得られる5つの方法について、成功事例から詳しく解説していきます。
1.コスト削減
新型コロナウイルスの流行から、在宅ワークなど働く場所について考え方が大きく変わりました。
ITを活用することで、大胆な拠点の配置転換や不動産の削減などが実現可能です。
賃料や修繕費、光熱費など不動産は所有するだけで大きなコストがかかります。
CRE戦略を導入し、働く場所について見直すと、余計なコストを大きく削減できることも大いに期待できるでしょう。
さらに、働く場所を自由に選べるため、優秀な人材を雇いやすくなることも大きなメリットであるといえます。
2.キャッシュ・イン・フローの増加
コスト削減の解説でも述べた余計なコストの削減もキャッシュインフローの増加といえますが、それ以外にも様々な方法で増加を見込めます。
自由に働ける環境の提供や、優秀な人材の雇用により、企業全体の生産性が向上し、労働とは関係ないただ所有しているだけの不動産の売却もキャシュインフローを増加させる手段です。
さらに、それらの方法で増加させたキャッシュを、さらなる事業投資にあてることでより多くの収入に変えることも期待できます。
3.経営リスクの軽減
不動産はそのときの社会情勢などから価値が大きく変動してしまうリスクもあります。もちろん上昇すれば価値も向上しますが、リスクに備えるという意味では暴落したときの対策を取っておくことも重要です。
CRE戦略の考え方には、そのような価値の変動リスクの分散・軽減も含まれています。
4.顧客サービスの向上
消費者と直接的なやり取りがある場合、CRE戦略による顧客サービスの向上にも期待できます。
生産性の向上や無駄の削減など、企業全体を見直すことで、製品クオリティの向上や販売価格の適正化をおこないやすくなります。
さらに、場所を選ばず企業のサービスを受けられることは、消費者にとっても大きなメリットといえるでしょう。これらの顧客サービスを向上させることで、企業の売上や顧客数の増加に繋がります。
5.コーポレートブランドの確立
CRE戦略の考え方で企業全体を見直すことで、働く場所の自由度が増す、顧客サービスが向上するなどの効果が見込めると解説しました。
それらの効果によって、消費者たちが企業のサービスを適正な価格で受けやすいと感じてもらえれば、イメージアップにも繋がります。
顧客や消費者からのイメージが上がれば、企業価値の上昇も期待でき、コーポレートブランドの確立も見込めます。
さらに、消費者たちにいい影響を与える企業であれば、地域社会への貢献という面においても大きなメリットといえるでしょう。
【社会編】CRE戦略を実施して期待ができる効果3選
上記でCRE戦略が企業に与える効果を解説してきましたが、CRE戦略で得られる効果は地域経済の活性化や地価の安定など、企業だけにとどまりません。
ここでは、CRE戦略の実施が社会に与える効果”3つ”を詳しく解説していきます。
1.土地の有効活用の促進
企業不動産である土地などを有効活用して、企業の生産性の向上やコスト削減をすることは企業価値を上げることは理解してもらえたと思います。
そのような考え方が社会全体的に広まることで、それぞれの企業が土地の有効活用をする動きが促進するなど社会への良い影響が期待できます。
また、長期間にわたる放置によって外観が悪くなった不動産は、所有している企業だけでなくその地域にまで悪影響を及ぼします。
そのような土地を有効活用する動きは、社会全体に大きなメリットを与えるといえるでしょう。
2.地域経済の再生
企業不動産は企業が持つ資産であることはもちろんですが、国内の不動産である場合、それは国や地域の社会的資本ともいえます。
日本は国土がせまいため、貴重な土地を有効活用することは重要な課題です。
ここでは範囲をもう少し絞って、CRE戦略が地域経済に与える影響について考えていきます。
人口の少ない地方の企業は人材の確保などが課題として挙げられますが、その地域の特色を活かした土地の有効活用はさまざまなメリットを生み出します。
オリジナリティある新規産業や、既にある企業の活性化は、成功が最低条件ですが、雇用の増加、企業・個人の収入増加も可能です。
しかし、地域経済の再生は、企業と各自治体など公共団体の協力が必要不可欠です。地域に大きな影響を与える分、実現に向けた課題も大きいといえます。
3.地価の安定
CRE戦略は、中長期的な不動産の有効活用を目指す考え方です。
短期目線で利益を狙う不動産の利用方法では、地価が安定しづらくなります。
CRE戦略の本質は企業や各地域の経済的な成長や、企業間の競争力を底上げすることにあると考えると、企業不動産は中長期で有効的な活用が望ましいです。
そのような動きが社会全体に広がることで、不動産の適正な価格設定にも繋がっていくでしょう。
CRE戦略の実施事例
ここからは、実際にCRE戦略を実施した企業”6社”と、その内容について過去の事例を紹介します。なお、CRE戦略の実施には連結グループ全体の見直しが必須です。
それらの大胆な動きにも着目して詳しく解説していきます。
※公開されているオープンデータから情報を取得し執筆しております。
日産自動車株式会社
日産自動車株式会社は、合理的な不動産管理の実現のためCRE戦略を導入しています。
本体と、連結販売会社の不動産を関連小会社に一元化することで不動産管理を効率的におこなえるようにしました。
また、販売ネットワークの再構築戦略の一環として、52社ある連結販売会社を資産管理会社(日産ネットワークホールディングス(株))と自動車販売事業会社に分割しています。
目的は、数多くある連結販売会社の資産管理体制の整備です。
この見直しで、不動産の使用と管理を分離させることを実現させました。
スタンレー電気株式会社
スタンレー電気株式会社は自動車用照明製品や発光ダイオード大手メーカーです。
同社は企業不動産管理の一元化を図るため、本社の総務部内にFM推進課(現在の総務課)を発足させています。
FMとは「ファシリティマネジメント」の略称です。
その内容は、企業や団体が組織活動を続けるために施設や周辺環境を総合的に管理、活用する経営活動を指します。
ただし、スタンレー電気株式会社のFMはファシリティだけでなく人や物、お金、情報も有効的に機能させるより総合的な施設管理機能とされています。
いすゞ自動車株式会社
いすゞ自動車株式会社は、販売会社が保有する不動産の管理を集約するためCRE戦略を導入しています。
内容は、グループの不動産関連事業を担当していた「いすゞエステート株式会社」に対する増資および社名変更(いすゞネットワーク)です。
これによって販売会社は、本来担当する販売・アフターサービスに集中できる体制に整備されました。
なお、増資は伊藤忠商事株式会社から受けており、その比率はいすゞ自動車から「75%」、伊藤忠商事から「25%」となっています。
このときに設立されたいすゞネットワーク株式会社は、国内の連結販売会社15社と、連結事業会社3社の株式を取得しています。
株式会社商船三井
株式会社商船三井は、グループ全体の効率的な資産活用を目的としてCRE戦略を導入しました。
その内容は、同社のグループ企業である「ダイビル株式会社」と「商船三井興産株式会社」によるビル管理事業の統合です。
これにより、それぞれの会社が持つマネジメントノウハウと営業力を活かした両社の一体運営が実現しています。
なお、このあとそれぞれの会社を連結小会社、持分法適用会社としています。
このために、ダイビルは商船三井興産の株式51%を、商船三井興産はダイビルの連結小会社であるエスカと関西建物管理株式会社の全株および株式会社大阪オールサービスの約49%の株式を取得しています。
日本郵船株式会社
日本郵船株式会社は、グループが持つ不動産事業の経営効率化で、より機動的な事業展開をおこなうことを目的にCRE戦略を導入しています。
その内容は、日本郵船の不動産賃貸事業の一部を連結小会社である郵船不動産株式会社に会社分割させるものです。
このように主要な企業不動産を専門の子会社に集めて事業を任せることで、経営の効率化を図っています。
なお、分割させた事業内容は、横浜貿易建物株式会社(日本郵船の連結小会社)が所有している横浜ビルの一部転貸事業です。
株式会社ダイドーリミテッド
株式会社ダイドーリミテッドは、グループ内に分散されていた不動産賃貸事業における経営資源を集中させ、業務効率化を図ることを目的にCRE戦略の導入をしています。
2010年時点では、検討段階ではありますが、不動産賃貸事業を完全子会社である株式会社ダイドーインターナショナルに承継させる予定となっています。
これにより、目的である不動産事業の集中と、業務の効率化で企業価値を向上させる狙いがあります。
なお、本体から分割させる事業は、小田原工場跡地に開発した複合商業施設「ダイナシティ」の賃貸運営が主体となっています。
まとめ
CRE戦略は、企業価値の向上や地域経済の活性化、社会全体への貢献が見込める画期的な考え方です。
各企業は、CRE戦略の不在による損失や、導入で得られるメリットについて過去の事例から詳しく知ることが大切です。
また、その動きを社会全体で活性化させ競争力を高めていくことも、今後の日本経済を成長させる大きな要因となるでしょう。