そのビル、建てられなくなるかもしれません── 職人数“3割減”時代の建設戦略

建設に係わる職人が不足していると言われています。これは最近に言われ始めたことではなく、30年以上前から指摘されていることです。そして、職人数は現在進行形で減少を続けています。これは、将来の建築投資にどのように影響してくるでしょうか。
(本コラム執筆者:不動産市場アナリスト 藤井和之)

1.建設に係わる職人の現状

 総務省の「労働力調査」から作成した全産業と建設業の就業者数の推移および全産業に対する建設業の比率を図1に示します。全産業の就業者数は第2次安倍政権のアベノミクスが始まった2013年以降に徐々に増加していました。新型コロナウイルスの感染拡大で経済活動が影響を受けた2020年~2021年にかけて就業者が減少しましたが、2022年以降は再び増加に転じています。2023年時点の全産業の就業者は6,747万人です。対して建設の就業者は、2010年~2019年は500万人前後で推移していました。新型コロナウイルス感染拡大で経済活動が影響を受けた2020年~2022年は減少傾向で推移しましたが、建設需要の増加に伴い2023年は増加に転じています。2023年時点の建設業の就業者は483万人です。全産業の就業者に対する建設業の就業者の割合は、2009年は8.2%でしたが、減少傾向で推移しており、2023年は7.2%となっています。
図2に「労働力調査」から作成した建設業の職業別就業者数の推移を示します。「技能者」が一般的にいうところの職人にあたります。建設業全体では2009年から2023年にかけて従業者が▲34万人となっています。職種別では、「技能者」(職人)が▲42万人、「技術者」が+6万人、「管理的職業、事務従業者」が+7万人、「販売従業者」が▲5万人、「その他」が±0万人であり、建設業の就業者減少の大部分は「技能者」(職人)の減少であることがわかります。

 職人の不足を外国人が補っているのではないか、と考えた方もいらっしゃるでしょう。実際、工事現場で外国人労働者を見かける機会が多くなっています。図3に日本建設業連合会の「建設業デジタルハンドブック」から作成した外国人材の受け入れ状況を示します。外国人材の受け入れは、新型コロナウイルスによる出入国規制期間は停滞したものの、増加傾向で推移しており、2023年は144,981人に達しています。内訳は、「特定技能外国人」が24,463人(うち30人が2号特定技能外国人)、「技能実習生」が88,830人、「その他(在留資格に基づくもの)」が31,688人です。特定技能外国人」と「技能実習生」の約11万人が、減少している「技能者」(職人)を補っていると考えられます。外国人材を含めても2023年時点の「技能者」(職人)は2009年から▲31万人ですので、既に職人不足は深刻な状況です。しかも、職人数は今後さらに減少することが確実です。

図1:全産業と建設業の就業者数の推移および建設業比率の推移 総務省「労働力調査」より作成

図2 建設業の職業別就業者数の推移 総務省「労働力調査」より作成

図3 建設業における外国人材の受け入れ状況 日本建設業連合会「建設業デジタルハンドブック」より作成

2.建設業の就業者の高齢化

 次に建設業の就業者の高齢化の進行状況について確認しましょう。総務省の「2020年国勢調査」から作成した2020年時点の20産業別の高齢化の進行状況を図4に示します。年齢区分を若年層「15~34歳」、中年層「35~49歳」、高年層「50~64歳」、前期高齢者「65~74歳」、後期高齢者「75歳以上」として、産業ごとに割合を示しています。「建設業」は高齢化が進んでおり、50歳以上が約半分の49.3%を占めています。これは全20業種中7番目に高い割合です。ただし、「建設業」は、65歳以上の割合が17.0%と急激に低くなっており、多くの人が64歳までに引退していることがわかります。後期高齢者である75歳以上に至っては2.9%まで低下しています。

 「2000年国勢調査」と「2020年国勢調査」の5歳年齢区分の就業者数を比較してみましょう。全産業(図5)では、2000年時点には団塊の世代と団塊ジュニアの世代の2つの山を確認できます。2020年には団塊の世代の多くは引退しており、団塊ジュニアの世代の山のみとなっています。なお、2020年の団塊ジュニア世代の山の高さは2000年とほぼ同じです。団塊ジュニアの世代の後にはベビーブームがないことから、2000年に比較比して2020年には40歳以下の就業者が激減していることが確認できます。これによる人手不足を補うために、2020年は60歳以上の就業者が増加しています。

 建設業(図6)についても同様の傾向を見ることができます。ただし、2000年時点で約71万人であった団塊ジュニアの世代の就業者は、2020年時点では約59万人まで減少しています。20年間の間に約12万人が建設業から離職してしまっているのです。また、団塊ジュニアの世代以降の就業者の減少速度が全産業よりも早くなっていることも読み取れます。若年者の就業者が増加しないのを補うためか、建設業の60歳以降の就業者の減少は全産業よりも緩やかです。こうした傾向は全産業に対する建設業の就業者比率を確認すとより鮮明に見えてきます。
図7は、2000年と2020年の全産業に占める建設業の比率を5歳区分で分析しています。2000年時点においても建設業の就業者比率は、年齢区分が若くなるほど低くなる傾向がありました。ただし、2000年時点で25歳~34歳であった就職氷河期世代では、建設業への就業者比率が高くなっており、建設業が氷河期世代の受け皿の一つになっていたことがわかります。
2000年時点では、後継者となる若年世代が比較的多かったことから、就業者の建設業比率は60~64歳をピークに減少に転じており、建設業比率の減少速度も速くなっていることがわかります。対して、2020年時点は、後継者となる若年世代が少ないため、就業者の建設業比率の減少が始まる年代が5歳後ろの65歳~69歳にずれています。また建設業比率の減少速度も2000年に比較して緩やかになっています。なお、2020年の建設業比率を20年スライドさせて2000年の建設業比率と比較すると、建設業比率は2000年よりも低くなっていることがわかります。ここから、建設業の離職率の高さが読み取れます。

図4 2020年時点の産業別高齢化進行状況 総務省「2020年国勢調査」より作成

図5 全産業の2000年と2020年の5歳区分就業者数 総務省「2000年、2020年国勢調査」より作成

図6 建設業の2000年と2020年の5歳区分就業者数 総務省「2000年、2020年国勢調査」より作成

図7 2000年と2020年の全産業に占める建設業比率の5歳区分 総務省「2000年、2020年国勢調査」より作成

3.今後の職人数の推移予測と建設投資への影響

 総務省の「2020年国勢調査」から作成した2020年時点の建設業12職業別の高齢化の進行状況を図8に示します。年齢区分を若年層「15~34歳」、中年層「35~49歳」、高年層「50~64歳」、前期高齢者「65~74歳」、後期高齢者「75歳以上」として、職業ごとに割合を示しています。

 2020年時点で高齢者の比率が高い職業は「畳職」(44.2%)、「左官」(41.6%)、「大工」(30.3%)、「ブロック積・タイル張従事者」(27.5%)です。これらの職業のうち「左官」、「大工」、「ブロック積・タイル張従事者」については、後期高齢者の割合が低いことから、ほとんどが74歳以下で引退していることがわかります。既に調査から5年近く経過していますので、これら3つの職業は人材不足が始まっている可能性があります。範囲を高齢者予備軍の高年層まで広げてみましょう。前述した4つの職業は「畳職」(71.4%)、「左官」(66.9%)、「大工」(59.8%)、「ブロック積・タイル張従事者」(57.5%)と非常に高い割合となります。「とび職」と「鉄道線路工事従事者」を除く10職業で比率が40%を超えています。そして、「畳職」以外の職業の後期高齢者の割合が低いことから、多くが今後20年以内に引退すると考えられます。

 総務省の「2020年国勢調査」と国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」を用いて筆者が推計した、2020年~2050年までの5年毎の「技能者」(職人)数を図9に示します。2020年時点で約194万人であった「技能者」(職人)数は、2050年には▲31.9%の約132万人まで減少する見込みです。減少率は、2000年~2005年は▲3.4%ですが、徐々に大きくなり、2045年~2050年は▲11.1%となります。ただし、すべての職業が均一に減少する訳ではありません。
図10に職業別の「技能者」(職人)数の推移予測を示します。比較がしやすいように2000年を100として指数化しています。2050年も2000年と同等もしくは「技能者」(職人)数が多い職業は「とび職」と「鉄道線路工事従事者」のみです。「鉄筋作業従事者」は、2035年までは「技能者」(職人)数がほぼ横ばいで推移しますが、2040年以降は減少傾向で推移します。その他の職業は、全て2000年以降は減少傾向で推移します。最も減少するのは「畳職」で、2050年には「技能者」(職人)数が2000年の58%まで減少する見込みです。鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物を構築する際に重要となる「型枠大工」数は、2050年には2000年の75%、木造建築や建物の内装を公示する際に重要となる「大工」数は同61%、コンクリート壁やモルタル壁の仕上げ工事等を担う「左官」は同69%です。機械化等でカバーできる部分もあると思いますが、これらの工事を担う「技能者」(職人)数の減少が、施工能力の減少に大きく影響すると考えられます。

 木造工事は「大工」数、非木造工事は「型枠大工」数の推移に影響を受けると仮定して、今後の建設投資額を算出します。なお、2020年の木造工事、非木造工事の実施額は、国土交通省の「補正調査」の2015年~2019年の平均額を設定しました。また、2000年~2024年の建築工事原価の上昇率は、建設物価調査会の「建設物価 建築費指数」の建築費指数(2015年基準)の標準指数(東京)より、木造は住宅(木造)の値、非木造は構造別平均 SRC、RC、Sの平均値から算出した値を設定しています。今後(2025年~2050年)の景気動向、物価上昇動向については現状では不透明であることから、①物価上昇が3%、②物価上昇が1.5%、物価上昇が0.5%の3パターンで推計しました。

 図11に木造建物の建設投資額の推計結果を、図12に非木造建物の建設投資額の推計結果を示します。木造建物への投資額は、2025年以降の物価上昇率が3%の場合は、2050年の投資額は2020年比+69%の約14.5兆円、物価上昇率が1.5%の場合は同+15%の約9.9兆円、物価上昇率が0.5%の場合は同▲11%の7.6兆円です。非木造建物への投資は、物価上昇率が3%の場合は同+106%の約33.6兆円、物価上昇率が1.5%の場合は同+41%の約23.0兆円、物価上昇率が0.5%の場合は同+9%の17.7兆円です。

図8 建設業12職業別の高齢化状況 総務省「2020年国勢調査」より作成

図9 技能者(職人)数の推移予測
   総務省「2020年国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」より作成

図10 職業別の「技能者」数の推移予測
   総務省「2020年国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」より作成

図11 木造建物の建設投資額の推移
   総務省「2020年国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所
   「日本の将来推計人口(令和5年推計)」、建設物価調査会「建設物価 建築費指数」より作成

図12 非木造建物の建設投資額の推移
   総務省「2020年国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所
   「日本の将来推計人口(令和5年推計)」、建設物価調査会「建設物価 建築費指数」より作成

4.まとめ

 今回は、「技能者」(職人)数の推移予測に基づき、供給側の制限に着目した建設投資額の長期推計を行いました。工事の機械化や建物の規格化等が進んでいることから、将来は現在よりも少ない「技能者」(職人)で工事を進めることができると考えられます。このため、「技能者」(職人)に依存する建設投資額は上振れする可能性があります。一方で、今回の推計は需要側については一切考慮していません。少子高齢化、大都市圏(特に東京圏)への人口集中が進む日本において、木造の戸建住宅の需要減少は避けられないと考えられます。一方で、集積材を用いた大規模木造ビルの建築は、今後増加する可能性があります。非木造建築物については、大都市圏(特に東京圏)の中心部のオフィス・商業ビル、マンション、ホテル、大都市周辺の倉庫やデータセンター等を中心に、当面は旺盛な建設需要が継続すると考えられます。特にオフィスビルや倉庫の施工は機械化が容易であると考えられますので、「技能者」(職人)減少の影響が小さいかもしれません。