福岡市

図1:福岡市の人口流入超過数(12か月移動平均)推移と貸家着工数(12か月移動平均)推移(総務省「住民基本台帳人口移動報告」、国土交通省「住宅着工統計」より作成)
図1に総務省の「住民基本台帳人口移動報告」と国土交通省の「住宅着工統計」から作成した、福岡市への人口流入超過数と貸家着工数の推移を示します。両者ともに季節変動を除くために12か月移動平均をとっています。
総務省の「2020年国勢調査」によると、福岡市は政令指定都市の中で人口増加数、人口増加率が最も高い都市です。直近の5年間の人口流入超過数の月平均は約650人であり、名古屋市(約210人)の3倍の流入があります。人口流入超過は、コロナ禍初期に大幅に増加した後、2022年の半ばまで減少傾向となりました。
その後、2024年半ばにかけて流入超過数は増加傾向となりましたが、現在は再び減少傾向となっています。これに対して、貸家着工数は概ね逆の動きをしています。特に2020年後半から2023年の後半にかけての約3年は、貸家着工数が人口流入超過数を大きく上回っており、この期間は若干の供給過剰状態になっていた可能性があります。

図2:福岡市の賃貸マンションの「募集賃料」指数と「支払い賃料」指数(2020年1月=100)の推移(アットホーム「全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向」、日本情報クリエイト「CRIX」より作成)
続いてアットホームの「全国主要都市における賃貸マンション・アパートの平均家賃(面積帯別)」から作成した福岡市賃貸マンションの面積別「募集賃料」と日本情報クリエイトの「CRIX」の「管理データ」にもとづく福岡市賃貸マンションの面積帯別の平均「支払い賃料」との比較を図2に示します。「募集賃料」、「支払い賃料」共に2020年1月を100として指数化しています。
福岡市の賃貸住宅の「募集賃料」は需給ギャップが拡大を続けていた2022年の半ばまでは横ばい傾向で推移していました。その後、需給ギャップが縮小に転じたのと同じタイミングで「募集賃料」は上昇に転じています。現在は再び需給ギャップが拡大傾向にありますが、「募集賃料」の上昇は継続しています。
2020年1月に対する2025年11月の「募集賃料」の上昇率は、単身者向けの30㎡以下が+23.8%(約+4.0%/年)、カップル向けの30-50㎡が+21.8%(約+3.6%)、家族向けの50-70㎡が+46.7%(約+7.8%/年)であり、分譲マンションの高騰から需要が高まり、かつ供給量の少ない家族向け物件の「募集賃料」の上昇幅が高くなっています。
福岡市の「支払い賃料」の動きは、広めの単身者向けの20-30㎡とそれ以外の面積帯で動きが異なります。20-30㎡の「支払い賃料」は、コロナ禍が始まってから学生がネット授業となったこと、留学生の入国が制限されたことなどの影響を受けて下落基調となりました。
その後、大学での授業再開や外国人の入国再開を受けて、2023年後半から急激な上昇に転じましたが、2024年半ば以降の需給ギャップ拡大に伴い、20-30㎡の「支払い賃料」は微減傾向となっています。
その他の面積帯の「支払い賃料」の推移は比較的安定しており、需給ギャップが拡大中は横ばい傾向、需給ギャップ縮小中は微増傾向で推移しています。2020年1月に対する2025年11月の「支払い賃料」の上昇率は、面積の狭い単身者向けの0-20㎡が+4.5%(約+0.8%/年)、面積の広い単身者向けの20-30㎡が+21.8%(約+2.1%/年)、カップル向けの30-50㎡が+8.0%(約+1.3%/年)、家族向けの50㎡-が+10.4%(約1.7%/年)であり、20-30㎡を除いて物価上昇分をカバーすることができていません。
まとめ
3回にわたり、日本の主要都市の賃貸住宅市場の「募集データ」にもとづく「募集賃料」と「管理データ」にもとづく「支払い賃料」の推移の相違点について解説しました。「募集賃料」、「支払い賃料」ともに需給ギャップが縮小(拡大)すると賃料が上昇(下降)する傾向が確認できます。
ただし、物価が大きく上昇し始めた直近の2年ほどは、需給ギャップが拡大しても「募集賃料」は上昇し続けるように変化しています。東京23区内においては、「募集家賃」が高騰しているとメディアが報じるようになりました。
このような「募集賃料」の高騰は、家主の多くが「支払い賃料」に物価上昇を反映しきれずに苦しんでいることが原因です。日本の賃貸住宅市場では、テナントが借地借家法で強く守られています。このため、家主はテナントと慎重に賃料改定の協議を進める必要があります。これが「支払い賃料」の上昇率が低い原因となっています。
結果として、家主は既存テナントの「支払い賃料」上昇率が低く、物価上昇率を賄いきれない分を、テナントの入れ替わり時に新規テナントから補うことが必要になります。現在のようなインフレ基調の場合は、「募集賃料」に将来の物価上昇分も加味するかもしれません。これが、「募集賃料」の上昇率が物価上昇率よりも高くなる理由です。
ところが、「募集賃料」の上昇率が物価上昇率に届いていない地域や面積帯も存在します。このような地域や面積帯は「募集賃料」を上げるに上げられない市場、つまり、供給過剰となっている市場である可能性が高いと考えられます。
藤井和之(ふじいかずゆき) 不動産市場アナリスト
1987年 東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了、清水建設入社
2005年 Realm Business Solutions(現ARGUSSoftware)
2007年 日本レップ(現GoodmanJapan)
2009年 タス
2022年~現職
不動産流通推進センターの機関誌「不動産フォーラム21」ほか執筆・セミナー活動を実施
著書 大空室時代~生き残るための賃貸住宅マーケット分析 住宅新報出版
不動産証券化協会認定マスター、宅地建物取引士
MRICS(英国王立チャータード・サーベイヤーズ協会)メンバー
日本不動産学会、日本不動産金融工学学会、資産評価政策学会会員