今後の職人数の推移予測と建設投資への影響

図1:建設業12職業別の高齢化状況(総務省「2020年国勢調査」より作成)
2020年時点の建設業12職業別の高齢化の進行状況を図1に示します。年齢区分を若年層「15~34歳」、中年層「35〜49歳」、高年層「50~64歳」、前期高齢者「65~74歳」、後期高齢者「75歳以上」として、職業ごとに割合を示しています。
2020年時点で高齢者の比率が高い職業は「畳職」(44.2%)、「左官」(41.6%)、「大工」(30.3%)、「ブロック積・タイル張従事者」(27.5%)です。これらの職業のうち「左官」、「大工」、「ブロック積・タイル張従事者」については、後期高齢者の割合が低いことから、ほとんどが74歳以下で引退していることがわかります。既に調査から5年近く経過していますので、これら3つの職業は人材不足が始まっている可能性があります。
範囲を高齢者予備軍の高年層まで広げてみましょう。前述した4つの職業は「畳職」(71.4%)、「左官」(66.9%)、「大工」(59.8%)、「ブロック積・タイル張従事者」(57.5%)と非常に高い割合となります。「とび職」と「鉄道線路工事従事者」を除く10職業で比率が40%を超えています。そして、「畳職」以外の職業の後期高齢者の割合が低いことから、多くが今後20年以内に引退すると考えられます。

図2:技能者(職人)数の推移予測(総務省「2020年国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」より作成)
次に総務省の「2020年国勢調査」と国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」を用いて筆者が推計した、2020年~2050年までの5年ごとの「技能者」(職人)数を図2に示します。2020年時点で約194万人であった「技能者」(職人)数は、2050年には▲31.9%の約132万人まで減少する見込みです。減少率は2000年~2005年は▲3.4%ですが、徐々に大きくなり、2045年~2050年は▲11.1%となります。ただし、すべての職業が均一に減少するわけではありません。

図3:職業別の「技能者」数の推移予測(同上)
図3に職業別の「技能者」(職人)数の推移予測を示しました。比較がしやすいように2000年を100として指数化しています。2050年も2000年と同等もしくは「技能者」(職人)数が多い職業は「とび職」と「鉄道線路工事従事者」のみです。「鉄筋作業従事者」は、2035年までは「技能者」(職人)数がほぼ横ばいで推移しますが、2040年以降は減少傾向で推移します。その他の職業は、すべて2000年以降は減少傾向で推移します。
最も減少するのは「畳職」で、2050年には「技能者」(職人)数が2000年の58%まで減少する見込みです。鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物を構築する際に重要となる「型枠大工」数は、2050年には2000年の75%、木造建築や建物の内装工事の際に重要となる「大工」数は同61%、コンクリート壁やモルタル壁の仕上げ工事などを担う「左官」は同69%です。
機械化などでカバーできる部分もあると思いますが、これらの工事を担う「技能者」(職人)数の減少が、施工能力の減少に大きく影響すると考えられます。
木造工事は「大工」数、非木造工事は「型枠大工」数の推移に影響を受けると仮定して、今後の建設投資額を算出します。なお、2020年の木造工事、非木造工事の実施額は、国土交通省の「補正調査」の2015年~2019年の平均額を設定しました。
また、2000年~2024年の建築工事原価の上昇率は、建設物価調査会の「建設物価 建築費指数」の建築費指数(2015年基準)の標準指数(東京)より、木造は住宅(木造)の値、非木造は構造別平均 SRC、RC、Sの平均値から算出した値を設定しています。今後(2025年~2050年)の景気動向、物価上昇動向については現状では不透明であることから、①物価上昇が3%、②物価上昇が1.5%、物価上昇が0.5%の3パターンで推計しました。

図4:木造建物の建設投資額の推移(総務省「2020年国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」、建設物価調査会「建設物価 建築費指数」より作成)

図5:非木造建物の建設投資額の推移(同上)
図4に木造建物の建設投資額の推計結果を、図5に非木造建物の建設投資額の推計結果を示します。木造建物への投資額は、2025年以降の物価上昇率が3%の場合は、2050年の投資額は2020年比+69%の約14.5兆円、物価上昇率が1.5%の場合は同+15%の約9.9兆円、物価上昇率が0.5%の場合は同▲11%の7.6兆円です。
非木造建物への投資は、物価上昇率が3%の場合は同+106%の約33.6兆円、物価上昇率が1.5%の場合は同+41%の約23.0兆円、物価上昇率が0.5%の場合は同+9%の17.7兆円です。
まとめ
今回は「技能者」(職人)数の推移予測にもとづき、供給側の制限に着目した建設投資額の長期推計を行いました。工事の機械化や建物の規格化などが進んでいることから、将来は現在よりも少ない「技能者」(職人)で工事を進めることができると考えられます。このため、「技能者」(職人)に依存する建設投資額は上振れする可能性があります。
一方で、今回の推計は需要側については一切考慮していません。少子高齢化、大都市圏(特に東京圏)への人口集中が進む日本において、木造の戸建住宅の需要減少は避けられないと考えられます。
それに対し、集積材を用いた大規模木造ビルの建築は、今後増加する可能性があります。非木造建築物については、大都市圏(特に東京圏)の中心部のオフィス・商業ビル、マンション、ホテル、大都市周辺の倉庫やデータセンターなどを中心に、当面は旺盛な建設需要が継続すると考えられます。特にオフィスビルや倉庫の施工は機械化が容易であると考えられますので、「技能者」(職人)減少の影響が小さいかもしれません。
藤井和之(ふじいかずゆき) 不動産市場アナリスト
1987年 東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了、清水建設入社
2005年 Realm Business Solutions(現ARGUSSoftware)
2007年 日本レップ(現GoodmanJapan)
2009年 タス
2022年~現職
不動産流通推進センターの機関誌「不動産フォーラム21」ほか執筆・セミナー活動を実施
著書 大空室時代~生き残るための賃貸住宅マーケット分析 住宅新報出版
不動産証券化協会認定マスター、宅地建物取引士
MRICS(英国王立チャータード・サーベイヤーズ協会)メンバー
日本不動産学会、日本不動産金融工学学会、資産評価政策学会会員