投資家が注目するデータセンター、しかし死角も
近年、AIの発展やクラウド化の進行に伴い、データセンターへの投資が加速しています。特に、日本は政治的安定性や光ファイバーインフラの充実により、グローバル市場でも注目されています。しかし、データセンターの急増に伴う電力消費の増加や供給リスクも無視できません。本コラムでは、データセンター投資の現状と将来性に加え、潜在的なリスクについて分析し、持続可能な成長のために必要な視点を考察します。
(本コラム執筆者:不動産市場アナリスト 藤井和之)
1.加速するデータセンター投資
ChatGPT等の大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)を用いたAIの開発競争および利用の増加、ビットコイン等の仮想通貨の採掘(マイニング)の増加、DXの進行やクラウド利用の増加等により、データセンターの需要は世界中で拡大しています。欧米では、これまでコアアセットであったオフィス市場が、新型コロナウイルス感染拡大によって被ったダメージからの回復が遅れています。このため、データセンターは投資の新たなコアアセットとして注目されています。オフィス市場が欧米に比較して堅調な日本においても、多くのデータセンター開発及び計画が進んでいます。JLLの「EFLOPS、レジリエンス、脱炭素と日本のデータセンター不動産投資市場」によると、日本は、北米・欧州、アジアパシフィック地域等との接続の良さ、政治的安定性の高さ、光ファイバー敷設率の高さ、停電の少なさ、高度人材の豊富さ、地政学リスクの少なさ、高度な自然災害対策等の理由から、データセンター建設地として優位性があります。また日本経済新聞の「データセンターや基地局に期待 米英大手運用会社の幹部」によると、ダブリン、アムステルダム、シンガポール、アッシュバーン等の都市では、送配電網が対応できないことからデータセンターの新設を停止しています。これらの理由から、日本はデータセンター建設地としてグローバルで注目を集めており、既に30近い企業(もしくは企業グループ)がデータセンターの開設・拡張を計画しています。
2.データセンターの電力消費量も増加
国際エネルギー機関(IEA)の「Electricity 2024」によると、現在、世界には8,000以上のデータセンターがあります。うち約33%が米国、約16%がヨーロッパ、約10%が中国に所在しており、2022年時点の世界のデータセンターの電力使用量は460テラワット時であるとしています。またIEAは、Google等の検索ツールがAIを導入した場合、1リクエスト当たりの電力需要が約10倍(通常の検索の0.3ワット時に対しAI導入後は2.9ワット時)に増加する可能性があり、1日あたりの検索数を90億回とすると、年間で10テラワット時の追加電力が必要になると試算しています。これらを考慮すると、2026年の世界のデータセンターの電力消費量は620テラワット時(1.35倍)~1,050テラワット時(2.28倍)に拡大する見込みです。Enerdataの「世界のエネルギー・気候統計-年鑑2024」によると、2023年の日本の電力消費量は世界で5番目に多い(図1)909テラワット時ですので、2026年にはデータセンターのみで日本1国分の電力消費量を上回る可能性があるのです。
国内のデータセンターの電力消費量はどのように変化するでしょうか。IDC Japanは「国内データセンター内のAI向け電力推定を発表」において、2027年の国内のデータセンターのAI向け電力需要が2024年の約1.5倍になると試算しています。また、国立研究開発法人科学技術振興機構は「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響Vol.4」において、2030年の国内データセンター電力消費量は、現時点の技術のまま省エネルギー対策が進まない場合(As isケース)は90テラワット時(2018年の6.4倍)、エネルギー効率が小幅に改善された場合(Modestケース)は24テラワット時(同1.7倍)、エネルギー効率が大幅に改善された場合(Optimisticケース)は6テラワット時(同0.4倍)になると試算(図2)しています。データセンター電力消費量が線形的に増加すると仮定すると、As isケースの2027年のデータセンター電力消費量(約71テラワット時)は2024年(約52テラワット時)の約1.4倍となりますので、IDC Japanの試算は国立研究開発法人科学技術振興機構の試算のAs isケースに近いものであると考えられます。国立研究開発法人科学技術振興機構は2030年の世界のデータセンター電力消費量も試算(図3)しており、As isケースは2,600テラワット時(2018年の14.4倍)、Modestケースは670テラワット時(同3.7倍)、Optimisticケースは190テラワット時(同1.1倍)と試算しています。データセンター電力消費量が線形的に増加すると仮定すると、国立研究開発法人科学技術振興機構の試算する2026年の世界のデータセンター電力消費量はModestケースで約507メガワット時、As isケースで約1793メガワット時ですので、IEAの試算は国立研究開発法人科学技術振興機構の試算のModestケースとAs isケースの中間あたりであると考えられます。
図1 主要国の2023年の電力消費量
Enerdata「世界のエネルギー・気候統計-年鑑2024」より作成
図2 日本のデータセンター電力消費量の予測
国立研究開発法人科学技術振興機構「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響Vol.4」より作成
図3 世界のデータセンター電力消費量の予測
国立研究開発法人科学技術振興機構「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響Vol.4」より作成
3.データセンター開発を阻むリスク
Enerdataの「世界のエネルギー・気候統計-年鑑2024」によると、日本の電力消費量は2007年にピークの1,077テラワット時となりました。一方で電力生産量は2010年の1,171テラワット時がピークです。2011年の東日本大震災後に原子力発電所の運転が停止したことから、2011年~2016年まで予備率(生産量÷消費量)が低迷していましたが、2017年以降はおおむね横ばいで推移しています(図4)。しかし、電力の需要は年間を通して一定ではありません。経済産業省 資源エネルギー庁の「2022年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)」によると、近年では7月~8月、12月~1月にかけて電力使用量がピークを迎えます。電力の安定供給には瞬間的な需要変動に対応できるように最低3%の予備率、発電所のトラブル等も考慮すると5%の予備率が必要と言われています。需要が供給を上回ると大規模な停電が発生する恐れがあるため、政府は予備率が5%を下回る可能性があるときは注意報を、3%を下回る可能性があるときは警報を発令しています。図5は経済産業省 資源エネルギー庁の「2024年度夏季の電力需給対策について」から作成した2016年~2024年の8月の電力予備率推移(2024年のみ予測)です。多くの地域で予備率が5%を下回っており、2015年九州、2017年中部では3%まで予備率が下がっています。ピーク電力に対する予備率低下に対策として、政府は度々節電要請を行ってきました。生産面では、火力発電所の増強(老朽火力発電所の再稼働含む)、太陽光発電や風力発電施設の増加、電力会社間での電力融通等、消費面では、節電や工場の操業調整等により改善していますが、予断を許さない状態が続いています。
国立研究開発法人科学技術振興機構の「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響Vol.4」によると2018年の国内データセンターの電力消費量は14テラワット時ですので、2018年の国内電機消費量の約1.5%、電力生産量の1.3%を占めていたことになります。欧米の中国離れや円安等の影響で、企業の工場の国内回帰の機運が高まっていますので、今後の国内の電力消費量(データセンター除く)は増加に転じる可能性があります。仮に2030年の国内電力消費量(データセンター除く)が2018年とほぼ同じ950テラワット時程度とした場合、国立研究開発法人科学技術振興機構の試算のAs isケースではデータセンターの電力消費電力が90テラワットですので、総電力消費量は約1,040テラワット時(国内電力消費量に占めるデータセンターの割合:8.7%)となります。これは直近5年間の電力生産量の平均である約1,030テラワット時を超えています。同試算のModestケースでも電力消費量が約974テラワット時(同2.5%)となりますので、電力生産量を大きく増産しない限り、予備率が減少し、真夏、真冬の電力消費量ピーク時の対応が困難になる可能性があります。同試算のOptimisticケースであれば956テラワット時(同0.6%)となりますので、現状の電力生産量でも何とか対応ができるでしょう。エネルギー効率が大幅に改善されない限り、現状の電力生産環境ではデータセンターの増加は国内電力をひっ迫させる可能性があります。
図4 日本の電力消費量、生産量、予備率(生産/消費)の推移
Enerdata「世界のエネルギー・気候統計-年鑑2024」より作成
図5 2016年~2024年の8月の電力予備率推移
経済産業省 資源エネルギー庁「2024年度夏季の電力需給対策について」より作成
4.まとめ
データセンターでは多くのサーバー等のIT機器が稼働します。これらのIT機器には半導体の集積回路が多く搭載されています。半導体は動作時に発熱しますが、半導体の材料であるシリコンは熱に弱いため、常に冷却を続ける必要があります。このため、データセンターは多くの電力を必要とします。電力消費を削減するための技術開発も進んでいます。それが、NTTグループがインテルコーポレーションやソニーと研究開発を行っている半導体の制御を電気ではなく光で制御する「光電融合」(IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想)です。です。NTTグループは、データセンターに光電融合技術が備わることで、40%以上の省エネができるとしており、2030年に光で計算する「光電融合チップ」の実用化を目指しています。しかしながら、既存半導体が「光電融合チップ」に置き換わるまでの電力供給を確保する必要があります。
世界的な動きとして、太陽光発電等の自然エネルギーは、送電網敷設への投資不足が足かせとなっており、利用が見直され始めています。また、ヨーロッパではロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰から原子力発電所の活用が見直されています。これは、世界的なAI競争に伴うデータセンター開発とも無縁ではありません。将来にわたり安定的な電力を確保するために動き始めている大手IT企業もあります。Googleは新興電力会社であるカイロス・パワーの小型原子力発電所からの電力調達を発表していますし、Amazonは米国でデータセンター向けの電力を確保するために小型原子力発電所開発企業のXエナジーに投資することを発表しています。またマイクロソフトは2019年に運転停止したスリーマイル島の原子力発電所1号機を再稼働させ、20年にわたり電力を購入する契約を米電力大手コンステレーション・エナジーと締結しています。
日本では現在、東日本大震災以降に稼働を停止していた原子力発電所の再稼働が徐々に進みつつあります。一方で、原子力発電所廃止を訴える意見も少なくありません。今回の衆議院選挙において、マニュフェストで原子力発電所再稼働推進としていたのが自由民主党、国民民主党、日本維新の会、参政党の4党、即時撤廃を含め将来的に廃止を求めているのが公明党、立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新撰組です。再稼働推進派の議席数は260議席であり過半数を超えてはいますが、予定通り再稼働が進むかどうか、先行きは不透明です。電力供給力に余裕のない日本で、データセンターの開発が計画通りに進むかどうかは、原子力発電所の再稼働にかかっているといっても過言ではないと筆者は考えています。