人口流入超過数、人口、世帯数の推移
東京都、特に東京23区の物件価格が上昇しているのは、新型コロナウイルス感染の収束に伴い、都心回帰が復活したからであるという説があります。そこでまずは東京都への人口流入超過数の推移について確認しましょう。図1に総務省の「住民基本台帳人口移動報告」から作成した東京23区と都下の人口流入超過数の推移を示します。季節変動を除するため、12か月の移動平均をとっています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、東京23区への人口流入超過数は大きく減少しましたが、2021年7月を底に急回復しました。2024年8月に、一旦はコロナ前の水準に戻りましたが、その後は減少傾向で推移しています。対して、都下の人口流入超過数は長期的に増加傾向で推移していることがわかります。
東京都の「東京都の人口(推計)」から作成した東京23区と都下の人口推移を図2に、世帯数の推移を図3に示します。人口、世帯数共に、長期的に増加傾向で推移していることがわかります。なお、国勢調査や法令の変更等で大きく値が変動している部分については筆者が補正しています。
景気動向
以前のコラムで解説したように、東京23区の都心5区のオフィスの空室率と平均募集賃料は景気動向(正確には景気動向の累積)と強い相関性が確認できます。住宅系の物件価格についても景気動向と関連している可能性があります。内閣府の「景気動向指数」から作成した、景気動向指数CIの一致指数(2015年基準)と一致指数から平均値を差し引いて累積を算出した一致指数累積を図4に示します。グラフには大きな谷が2つあります。1つ目はリーマンショック後の谷、2つ目は新型コロナウイルス感染拡大による谷です。現状は、景気が上昇基調で推移していることが確認できます。
物価動向、建築費動向
バブル景気破綻以降、日本では約30年に亘りデフレが継続していました。デフレ脱却のきっかけとなったのは第2次安倍政権が実施した、いわゆる「アベノミクス」です。図5に総務省「消費者物価指数(CPI)」から作成した東京23区のCPI(2015年基準)とCPIから平均値を差し引いて累積を算出したCPI累積を示します。CPI累積は、アベノミクスにより下落が止まり、コロナ禍収束後に一気に上昇に転じていることがわかります。
なお、昨今の住宅価格高騰は建築費の上昇が影響しているとも報道されています。図6に建築物価調査会の「建設物価 建築物価指数」から作成した、集合住宅(RC造)、集合住宅(S造)、木造住宅の工事原価指数の推移を示します。工事原価はCPIとの相関性が高いことがわかります。
金融機関融資動向
不動産を購入するにあたり、多くの人・企業は金融機関の融資を活用します。長期にわたる低金利政策の継続とこれに伴う変動金利ローンの利用拡大、30年を超える長期間ローンの普及、夫婦で返済するペアローンの普及等の要因により、住宅取得者が借り入れることができる住宅ローン額は高額化しています。これにより、大都市の高額物件の需要が増加し、物件価格上昇の要因となった可能性があります。また、物件価格の上昇速度が速くなると、次節で取り上げる法人売買件数(買取再販等)も増加し、物件価格上昇に拍車をかけることになります。図7は、住宅金融支援機構の「業態別の住宅ローン新規貸出額及び貸出残高の推移」から作成した住宅ローン新規貸出額の推移です。季節変動を除するため、4期移動平均も併せて示しています。住宅ローンの新規貸出額は、アベノミクス以降に概ね上昇傾向で推移していることがわかります。図8は日本銀行の「貸出先別貸出金」から作成した不動産業に対する新規貸出額の推移です。こちらも季節変動を除するため、4期移動平均も併せて示しています。不動産業に対する新規貸出額は、リーマンショック後に大きく減少した後、2010年~2017年初めまで上昇しました。その後は再び減少傾向に転じましたが、2021年半ばから急激に増加しています。
法人売買数推移
中古物件の価格が上昇した要因の一つとして、法人取引が増加したことが挙げられます。買い取った物件価格に対して、物件のリフォーム費用や法人のマージンが上乗せされますので、再販時には物件価格が大きく上昇することになります。これに対して、買取再販時に法人が実施するリフォーム費用やマージンに関するデータを収集する仕組みがないため、不動産価格指数のように買取再販を含む指数は上振れしている可能性があります。国土交通省の「不動産価格指数」から作成した東京都における取引主体別取引件数推移を図9、図10に示します。図9が戸建住宅、図10がマンション(区分所有)です。なお、季節変動を除するため12か月移動平均も併せて示しています。戸建住宅、マンション(区分所有)共に法人による個人からの買取は増加傾向にあることがわかります。一方で、法人から個人への売却については、戸建住宅は横ばい傾向であるのに対し、マンション(区分所有)は、2015年以降は増加傾向で推移しています。これらは、東京都のマンション(区分所有)の買取再販件数が増加している可能性を示しています。
次回は、価格と価格に影響を与えていると考えられる要因の関係について確認しましょう。

図1 東京23区と都下の人口流入超過数(12か月移動平均)の推移
総務省「住民基本台帳人口移動報告」から作成

図2 東京23区と都下の人口推移
東京都「東京都の人口(推計)」から作成

図3 東京23区と都下の世帯数推移
東京都「東京都の人口(推計)」から作成

図4 景気動向指数CI一致指数(2015年基準)と一致指数累積の推移
内閣府「景気動向指数」から作成

図5 東京23区の消費者物価指数CPI(2015年基準)とCPI累積の推移
総務省「消費者物価指数(CPI)」から作成
藤井和之(ふじいかずゆき) 不動産市場アナリスト
1987年 東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了、清水建設入社
2005年 Realm Business Solutions(現ARGUSSoftware)
2007年 日本レップ(現GoodmanJapan)
2009年 タス
2022年~現職
不動産流通推進センターの機関誌「不動産フォーラム21」ほか執筆・セミナー活動を実施
著書 大空室時代~生き残るための賃貸住宅マーケット分析 住宅新報出版
不動産証券化協会認定マスター、宅地建物取引士
MRICS(英国王立チャータード・サーベイヤーズ協会)メンバー
日本不動産学会、日本不動産金融工学学会、資産評価政策学会会員