東京都の住宅価格の上昇に影響を与えているものは何か(後編)

 前編では、東京都の新築マンション、新築戸建て、中古マンション価格、中古戸建価格、土地価格の長期推移について、中編では価格に推移に影響を与えている要因とされている項目の推移について確認しました。今回はこれらを用いて、中古マンション価格と中古戸建価格に影響を与えている要因について考察しましょう。なお、中編で、住宅ローンの新規貸出額推移について住宅金融支援機構の「業態別の住宅ローン新規貸出額及び貸出残高の推移」を紹介しましたが、より長期の推移が確認できることから、今回は日本銀行の「貸出先別貸出金」の住宅・消費(割賦返済分)の新規貸出額を用いています。

中古マンション価格と影響を与えていると考えられる要素の関係

 図が込み入っていて恐縮ですが、図1に東京都の中古マンション価格推移と価格に影響を与えていると考えられる要素の推移のグラフを示します。中古マンション価格推移は日本不動産研究所の「不動建価格指数」、価格に影響を与えていると考えられる要素は東京都の「東京都の人口(推計)」から作成した人口推移と世帯数推移、内閣府の「景気動向指数」の一致指数と一致指数から作成した一致指数累積、総務省の「消費者物価指数(CPI)」から作成した東京23区のCPIと東京都のCPIから作成したCPI累積、建築物価調査会「建設物価 建築物価指数」から作成した集合住宅(RC造)、集合住宅(S造)、の工事原価指数の推移、国土交通省の「不動産価格指数」から作成したマンションの法人→個人取引件数12か月移動平均、日本銀行の「貸出先別貸出金」から作成した住宅・消費(割賦返済分)の新規貸出額(12か月移動平均)と不動産業の新規貸出額(12か月移動平均)を用いて作成しています。なお、比較しやすいように、2015年を100として指数化しています。また、「景気動向指数」の一致指数累積と「消費者物価指数(CPI)」のCPI累積については他の要素と比較しやすいようにレベル調整を行っています。
 全期間(2004年1月~2025年12月)を通しての、中古マンション価格指数とそれぞれの要素との相関係数は、人口推移が0.81、世帯数推移が0.86、景気動向指数一致指数が0.09、一致指数累積が0.35、CPIが0.96、CPI累積が-0.07、工事原価指数の集合住宅(RC造)が0.97、集合住宅(S造)が0.98、法人→個人取引件数が0.52、新規貸出額の住宅ローンが0.43、不動産業が0.89であり、人口推移、世帯数推移、CPI、集合住宅(RC造)、集合住宅(S造)、の工事原価指数、不動産業への新規貸出額が強い正の相関関係にあります。なお、中古マンション価格指数が上昇基調となったアベノミクス以降(2013年1月~2025年12月)に期間を限定すると、景気動向指数の一致指数と一致指数累積を除くすべての要素が強い正の相関関係を持つようになり、中古マンション価格指数が急上昇を始めた2020年1月以降に限定すると、一致指数累積を除くすべての要素が強い正の相関関係を持つようになっています。

中古戸建価格と影響を与えていると考えられる要素の関係

 図2に東京都の中古戸建価格推移と価格に影響を与えていると考えられる要素の推移のグラフを示します。中古戸建価格は国土交通省の「不動産価格指数」の戸建住宅、価格に影響を与えていると考えられる要素は工事原価に建築物価調査会「建設物価 建築物価指数」から作成した木造住宅を使用している以外は図1と同じものを設定しています。
 全期間(2004年1月~2025年12月)を通しての、中古戸建価格指数とそれぞれの要素との相関係数は、人口推移が0.67、世帯数推移が0.73、景気動向指数一致指数が0.15、一致指数累積が0.51、CPIが0.94、CPI累積が-0.08、工事原価指数木造住宅が0.92、法人→個人取引件数が0.55、新規貸出額の住宅ローンが0.49、不動産業が0.83であり、人口推移、世帯数推移、CPI、集合住宅(RC造)、集合住宅(S造)、の工事原価指数、不動産業への新規貸出額が強い正の相関関係にあります。アベノミクス以降(2013年1月~2025年12月)に期間を限定すると、景気動向指数の一致指数と一致指数累積を除くすべての要素が強い正の相関関係を持つようになり、住宅価格が急上昇を始めた2020年1月以降に限定すると、一致指数累積を除くすべての要素が強い正の相関関係を持つようになっています。

まとめ

 価格上昇が始まった2013年以降の中古マンション価格指数推移を左辺、共線性を排除したうえで相関性の高い世帯数指数、CPI(23区)、新規貸出額の住宅ローン指数と不動産業指数を右辺に回帰分析を行い、中古マンション価格指数と理論値を比較したグラフを図3に示します。決定係数は0.97であり、モデルのあてはまりはかなり高いと考えられます。同様に、中古戸建住宅に関しても、2013年以降の中古マンション価格指数推移を左辺、共線性を排除したうえで相関性の高い世帯数指数、CPI(23区)、新規貸出額の住宅ローン指数と不動産業指数を右辺として回帰分析を行い、中古戸建価格指数と理論値を比較したグラフを図4に示します。決定係数は0.95であり、こちらもモデルの当てはまりがかなり高いことがわかります。両モデルから、アベノミクス以降の東京都の中古マンション価格推移、中古戸建価格推移に対して、CPI(23区)の影響が最も大きく、次いで世帯数増減の影響が大きいことが確認できます。
 3回に渡り、東京都の住宅価格と価格変動の要因とされる要素の関係について考察しました。以前のコラムで、東京23区のオフィスビルの空室率と募集賃料は景気動向に高い相関性を示すことをお伝えしましたが、住宅価格には景気動向よりも物価動向の影響の方が強いことが確認できました。なお、余談にはなりますが、CPI累積が底を打った2018年前半でデフレが終了したと考えられ、その結果、中古マンション価格の上昇幅が拡大した可能性が高いと筆者は考えています。

図1 中古マンション価格と影響を与えていると考えられる要素の関係
日本不動産研究所「不動建価格指数」、東京都「東京都の人口(推計)」、内閣府「景気動向指数」、総務省「消費者物価指数(CPI)」、建築物価調査会「建設物価 建築物価指数」、国土交通省「不動産価格指数」、日本銀行「貸出先別貸出金」から作成

図2 中古戸建価格と影響を与えていると考えられる要素の関係
国土交通省「不動産価格指数」、東京都「東京都の人口(推計)」、内閣府「景気動向指数」、総務省「消費者物価指数(CPI)」、建築物価調査会「建設物価 建築物価指数」、国土交通省「不動産価格指数」、日本銀行「貸出先別貸出金」から作成

図3 中古マンション価格指数推移と理論値の比較
日本不動産研究所「不動建価格指数」、東京都「東京都の人口(推計)」、総務省「消費者物価指数(CPI)」、日本銀行「貸出先別貸出金」から作成

図4 中古戸建価格指数推移と理論値の比較
国土交通省「不動産価格指数」、東京都「東京都の人口(推計)」、総務省「消費者物価指数(CPI)」、日本銀行「貸出先別貸出金」から作成

藤井和之(ふじいかずゆき) 不動産市場アナリスト

1987年 東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了、清水建設入社
2005年 Realm Business Solutions(現ARGUSSoftware)
2007年 日本レップ(現GoodmanJapan)
2009年 タス
2022年~現職

不動産流通推進センターの機関誌「不動産フォーラム21」ほか執筆・セミナー活動を実施
著書 大空室時代~生き残るための賃貸住宅マーケット分析 住宅新報出版
不動産証券化協会認定マスター、宅地建物取引士
MRICS(英国王立チャータード・サーベイヤーズ協会)メンバー
日本不動産学会、日本不動産金融工学学会、資産評価政策学会会員