不動産はバブルなのか?(前編)

 特に東京23区の不動産価格の上昇を指して、「バブルである」「もう少しでバブルがはじける」という論調の記事や報道が増えてきました。メディアでは「バブル」という言葉を安易に使っていますが、どのような状態を指しているかを明確にしていないものがほとんどですが、経済学では、「バブル」とは「資産価格がファンダメンタルズ(経済の基本的要因)から大幅にかい離して上昇すること」(※1)定義されています。したがって、「バブルを検出するためには、まずファンダメンタルズから決まってくる資産価格(資産価格の理論値)を知る」ことが重要になります。しかしながら、筆者の知る限り、「資産価格の理論値」との差異を示したうえで「バブルか否か」を判断している記事はごく少数です。
本コラムでは、今回から2回に渡り、オフィスとマンションの資産価格と理論値を比較し、現状がバブルかどうかを確認してみましょう。前編ではオフィス価格の確認を行います。

※1:文献によって言い回しには若干の差異があります。本コラムでは、内閣府の「平成5年度 年次経済報告」の文言を採用しました。

東京都のオフィス価格指数

 オフィスの価格指数を算出している機関は複数ありますが、数値まで公開されているものは少数です。今回は、公開されている期間が長期で、月次データとして公開されている、三井住友トラスト基礎研究所の「J-REIT不動産価格指数」のオフィスの値を理論値として使用します(以下、「オフィス価格指数」とします)。なお、J-REITのオフィスデータに含まれる東京都の割合については、公開しているデータがありませんが、各REITが公開しているデータから、オフィス資産の7割程度が東京都に所在していると推察できますので、オフィス価格指数は東京都(特に東京23区)の影響を強く受けていると考えられます。
 図1にオフィス価格指数の推移を示します。指数に小刻みな変動があるため、スムージングとして12か月移動平均も併せて示します。なお、公表されている指数は2008年=100ですが、理論値を作成するにあたって説明変数として利用する項目と合わせて2015年=100に統一しています。

図1 オフィスの価格指数と12か月移動平均推移
三井住友トラスト基礎研究所「J-REIT不動産価格指数」より作成

理論値を作成するために用いる説明変数

 以前のコラムで、東京23区のオフィス空室率と平均募集賃料が内閣府の「景気動向指数」一致指数CIから作成した一致指数累積(各月の一致指数から一致指数の平均値を差し引き、累積した値)と強い相関関係があることを示しました。また、不動産価格と物価の推移、不動産業への融資額の推移に相関があることはよく知られています。そこで、今回は一致指数累積、総務省「消費者物価指数CPI(23区)」(以下、「CPI(23区)」とします)、日本銀行「貸出先別貸出金」の不動産業への新規貸出額(以下、「新規貸出額(不動産魚)」とします)を説明変数として選択しました。図2にオフィス価格指数、CPI(23区)、新規貸出額(不動産業)、一致指数累積の推移を示します。比較しやすいように、オフィス価格指数、CPI(23区)、新規貸出額(不動産業)は2015年=100として指数化(以下、「CPI(23区)指数」、「新規貸出額(不動産業)指数」とします)しています。また、一致指数累積は2015年基準(2015年=100)で作成しています。
 オフィス価格指数と各説明変数との相関係数は、一致指数累積が0.55、CPI(23区)指数が0.85、新規貸出額(不動産業)指数が0.85であり、オフィス価格指数と一致指数累積には中程度の正の相関関係、オフィス価格指数とCPI(23区)指数、新規貸出額(不動産業)指数には強い正の相関関係が確認できます。

図2 オフィスの価格指数、CPI(23区)、不動産業への新規貸出額(2015年=100)と一致指数累積(2015年基準)の推移
 三井住友トラスト基礎研究所「J-REIT不動産価格指数」、総務省「消費者物価指数CPI」、日本銀行「貸出先別貸出金」、内閣府「景気動向指数」より作成

オフィス価格指数と理論値の比較

 オフィス価格指数がファンダメンタルズから大幅にかい離して上昇しているかどうかの確認を以下の手順で行います。
① 2002年4月~2023年12月までの数値を用いて、左辺をオフィス価格指数、右辺を一致指数累積、CPI(23区)指数 、新規貸出額(不動産業)指数として回帰分析を行い、理論値の算出式を作成
② 2024年1月~2026年3月の一致指数累積、CPI(23区)指数 、新規貸出額(不動産業)指数の実数を用いて、2024年1月~2026年3月のオフィス価格指数の予測値を算出
③ ③オフィス価格指数とオフィス価格指数予測値を比較

図3にオフィス価格指数、理論値(2002年4月~2023年12月)、オフィス価格指数予測値(2024年1月~2026年3月)を示します。理論値を算出するための回帰式の決定係数は0.81であり、当てはまりが良い式となっています。また、右辺の切片および説明変数はすべて統計的に有意です。ファンダメンタルズから算出したオフィス価格指数予測値が上昇基調で推移しているのに対して、オフィス価格指数は横ばい傾向で推移していることがわかります。東京都以外の物件の影響を割り引いて考慮する必要はありますが、オフィス価格指数がオフィス価格指数予測値を下回っていることから、現状では、オフィス価格はバブルではなく、まだ上昇余地があると考えられます。日本不動産研究所の「不動産投資家調査」によると東京都のオフィス期待利回りは2023年頃から横ばい傾向となっています。一方で、東京ビジネス地区の平均募集賃料は一致指数累積と強い正の相関関係があり、一致指数累積は上昇基調で推移しています。したがって、今後のオフィス価格の上昇は賃料上昇によるものとなるでしょう。
 後編では、中古マンション市場について確認します。

図3 オフィス価格指数と理論値(2002年4月~2023年12月)、オフィス価格指数予測値(2024年1月~2026年3月)の推移
 三井住友トラスト基礎研究所「J-REIT不動産価格指数」、総務省「消費者物価指数CPI」、日本銀行「貸出先別貸出金」、内閣府「景気動向指数」より作成

藤井和之(ふじいかずゆき) 不動産市場アナリスト

1987年 東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了、清水建設入社
2005年 Realm Business Solutions(現ARGUSSoftware)
2007年 日本レップ(現GoodmanJapan)
2009年 タス
2022年~現職

不動産流通推進センターの機関誌「不動産フォーラム21」ほか執筆・セミナー活動を実施
著書 大空室時代~生き残るための賃貸住宅マーケット分析 住宅新報出版
不動産証券化協会認定マスター、宅地建物取引士
MRICS(英国王立チャータード・サーベイヤーズ協会)メンバー
日本不動産学会、日本不動産金融工学学会、資産評価政策学会会員