東京都の中古マンション価格指数
以前のコラムでも紹介しましたが、中古マンション価格指数としては国土交通省の「不動産価格指数(住宅)マンション(区分所有)」(※1)と日本不動産研究所が発表している「不動研住宅価格指数」が存在します。前者は、国土交通省が実施する「不動産の取引価格情報提供制度」(不動産取引当事者へのアンケート調査に基づく不動産の実際の取引価格等に関する情報を国民に対して提供する制度)により蓄積されたデータを活用し、個別物件の品質をヘドニック法によって調整して推計した指数、後者は、東日本不動産流通機構の中古マンション成約価格情報を用いて、同一物件の価格変化に基づいて算出された(リピートセールス法)指数です。本コラムでは、より長期の確認を行うことができる不動研価格指数を2015年基準(2015年=100)に換算した指数を中古マンション価格推移として検証していきます(図1)。中古マンション価格は、第2次安倍政権のアベノミクスで上昇を開始し、新型コロナウイルス感染拡大の影響で始まった物価上昇の影響で価格の上昇幅が拡大しました。2026年度に入ったあたりから、頭打ちの傾向が読み取れます。
※1:本コラム執筆時点(2026年8月)において、国土交通省の「不動産価格指数」は、算出時のプログラム不具合の原因確認作業のため公開が延期されています。

図1 東京都の中古マンション価格推移(2015年=100)
日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」より作成
理論値と予測値の作成方法
以前のコラムで、中古マンション価格が上昇を始めた2013年から2025年末までの「不動研住宅価格指数」を被説明変数、東京都の「東京都の人口(推計)」から作成した「東京23区の世帯数指数(2015年基準)」、総務省の「消費者物価指数(CPI)」から作成した「東京23区のCPI(2015年基準)」、日本銀行の「貸出先別貸出金」から作成した「住宅・消費(割賦返済分)の新規貸出額(12か月移動平均)指数(2015年基準)」と「不動産業の新規貸出額(12か月移動平均)指数(2015年基準)」を説明変数として2004年1月~2025年12月の期間で回帰分析を行い、決定係数が0.95と当てはまりが高いことを確認しました。この結果を踏まえて、本稿においても同じ説明変数を用いて確認を行います。参考までに、図2に、2004年1月~2026年3月までの「不動研住宅価格指数」、「東京23区の世帯数指数」、「東京23区のCPI」、「住宅・消費(割賦返済分)の新規貸出額(12か月移動平均)指数」、「「不動産業の新規貸出額(12か月移動平均)指数」を示します。なお、比較しやすいように、2015年を100として指数化しています。
分析は以下の手順で行います。
(1)2004年1月~2023年12月の20年間のデータを用いて理論式を作成
(2)2024年1月~2026年3月までの説明変数の実値を用いて、この期間の予測値を算出
(3)「不動研住宅価格指数」と予測値の比較

図2 中古マンション価格指数と説明変数の推移
日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」、東京都の「東京都の人口(推計)」、総務省の「消費者物価指数(CPI)」、日本銀行の「貸出先別貸出金」から作成
分析結果
図3に「不動研住宅価格指数」(2004年1月~2026年5月)と理論値(2004年1月~2023年12月)、予測値(2024年1月~2026年3月)を示します。なお、回帰分析の決定係数は0.92であり、説明変数は全て統計的に有意であることは確認しています。モデルの当てはまりはかなり高いと考えられます。
2024年1月~2025年5月の期間は、予測値と「不動研住宅価格指数」に大きな違いは見られませんが、2025年6月以降は予測値が横ばい傾向となったのに対して、「不動研住宅価格指数」は上昇を続けていることがわかります。つまり、この頃から中古マンション価格とファンダメンタルズが乖離し始めたと考えられます。乖離幅が最も大きくなったのは2026年2月時点で、「不動研住宅価格指数」は予測値よりも約13.3%高くなっています。この乖離幅が「大幅」かどうか、つまり「バブル」か否かについては議論の余地はあるでしょう。バブル景気を経験したことのある筆者の感覚では、この程度の乖離は「バブル」とは言い難いと考えています。2026年に入ってから「不動研住宅価格指数」の上昇幅は減速し、直近の5月には若干下落しています。上振れたマンション価格が調整局面に入った可能性があります。もし、中古マンション価格がファンダメンタルズに近づくのであれば、今後10%程度、価格が下落する可能性があると考えられます。

図3 中古マンション価格指数と理論値、予測値の推移
日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」、東京都の「東京都の人口(推計)」、総務省の「消費者物価指数(CPI)」、日本銀行の「貸出先別貸出金」から作成
まとめ
2回に渡り、オフィス価格と中古マンション価格が「バブル」か否かを検証しました。まとめますと、オフィス価格はファンダメンタルズよりも低い価格で推移していることから、まだ上昇余地がある(「バブル」ではない)、中古マンション価格はファンダメンタルズよりも若干高い価格で推移しているが、乖離幅が小さく「バブル」とは言い難い、という結論となりました。
東日本不動産流通機構の「月例マーケットウオッチ」によると、東京都の中古マンションの成約㎡単価は、新規登録時の㎡単価から30%近く値下がりしていることがわかります。ここ数年の中古マンション価格上昇を受けて、新規登録時の価格が上振れしてしまっているのです。これが購買意欲を減退させ、結果として中古マンション価格が頭打ちしていると考えられます。そういった観点からも、東京都の中古マンション市場は正常に機能している(「バブル」ではない)と言えるでしょう。
藤井和之(ふじいかずゆき) 不動産市場アナリスト
1987年 東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了、清水建設入社
2005年 Realm Business Solutions(現ARGUSSoftware)
2007年 日本レップ(現GoodmanJapan)
2009年 タス
2022年~現職
不動産流通推進センターの機関誌「不動産フォーラム21」ほか執筆・セミナー活動を実施
著書 大空室時代~生き残るための賃貸住宅マーケット分析 住宅新報出版
不動産証券化協会認定マスター、宅地建物取引士
MRICS(英国王立チャータード・サーベイヤーズ協会)メンバー
日本不動産学会、日本不動産金融工学学会、資産評価政策学会会員